《季節のほうじ茶》

3月「春巡」

2024年2月27日公開

丸八製茶場が毎月数量限定で発売している「季節のほうじ茶」は、
さまざまな品種の茶葉を、その個性が生きる焙煎で仕上げた焙じ茶です。

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草花の芽吹きを思わせる
にぎやかな味わい。

3月の「季節のほうじ茶」は、「春巡(はるめぐり)」です。「春巡」は、2代に渡って日本で台湾茶の生産と製造を行っている丸高農園でつくられた茶葉。台湾茶の製造の過程で行われる萎凋(いちょう)という工程による華やかな香りが特徴です。

萎凋は、茶葉を発酵させる工程です。茶葉を摘み取った後にまずは日光の下で、次に室内で時間を置き、酸化発酵を促します。萎凋を行うと、茶葉からはだんだん水分が抜け、柔らかくなり、萎れていきます。一方で、その茶葉からしか生まれない個性的な香りが醸し出されてくるのです。

自然の力を借りて行う萎凋は、天候や気温に大きく左右されます。茶葉を摘み取った後に雨や曇りになってしまった場合は、それに応じた対策を行い、一定の品質に仕上げる必要があります。また、発酵を止めるタイミングは目安がありつつも、最終的には人の感覚を頼りに決めるのです。

そうして出来上がった「春巡」は、厚みのある花のような香りをしっかりと感じさせるお茶です。今回は、その茶葉を浅く焙煎したことで、華やかな香りと柔らかな甘味が心地よく広がる焙じ茶が出来上がりました。

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独特の製法によって生まれる、丸みを帯びた形状の茶葉。お湯や水を含むと、ゆっくりと茶葉がひらいていきます。

お勧めの飲み方は、水出しです。すっきりフルーティーな味わいと、鼻に抜ける華やかな香りが感じられ、穏やかな春の優しさが思い起こされます。温かくいれると、ほどよい渋味と共になめらかな余韻を楽しめるでしょう。

「春巡」と楽しみたい、
見えない声に耳を傾ける物語。

「季節のほうじ茶」をご紹介するこの記事では、その味わいから連想される本をご紹介しています。今月の本は、ドリアン助川さんの『あん』です。

河瀬直美さんの映画でこの作品をご存知の方も多いのではないでしょうか。あるどら焼き店を舞台にしたこの物語の中で、それはそれはおいしそうに描かれているのが、タイトルにもなっている「あん」です。

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ドリアン助川『あん』ポプラ社。春にはじまって春に終わる物語。季節の移り変わりを表現する自然の描写が美しく、特に桜のイメージが心に残ります。

小さなどら焼き店を営む男性のもとに、ある老女が訪れ、ここで働きたいと言い出します。それまで出来合いのものを使っていた「あん」を彼女がつくる「あん」に変えると、そのおいしさに、店が見違えるように繁盛するようになります。

物語の中では「あん」が炊かれていく様子が丁寧に描かれています。水を吸ってキラキラと光る小豆。煮汁の中で小豆がゆらゆらと揺れ動く様子。炊かれた小豆をさらすための冷水の透明感。「あん」という言葉、「あん」というものの中にぎゅっと詰め込まれたいくつもの風景は、そのおいしさに繋がるように感じます。

物語の中に出てくる「小豆の言葉を聞く」という言葉は、例えば小豆が収穫される前の日々を想像すること、と説明されます。同じことが、お茶でもきっと言えるのではないでしょうか。手間と時間をかけて育てられ、日の光をたっぷりと浴びながら香りを纏い、秒単位の繊細なバランスで焙煎された「春巡」。あなたのもとに届くまでの茶葉の物語を想像しながら、その香りや味わいに耳を傾けてみてください。

*「春巡」は2024年3月1日より発売です
*2024年3月の期間・数量限定商品です。
 限定数に達した場合は販売終了とさせていただきます