香りを生む焙煎

2021年7月26日公開

一般的な葉の焙じ茶とは異なる「献上加賀棒茶」のすっきりと芳ばしい香り。
その香りは、焙煎によって生まれます。

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焙煎によって生まれる
茎の焙じ茶ならではの香り。

明治時代から石川県でつくられていた「加賀棒茶」。しかし、その香りについては、科学的に分析されたことがありませんでした。2011年、丸八製茶場は石川県工業試験場に依頼し、その独特の香りが焙煎によってつくられることを解き明かしました。

焙じ茶の主な香り成分は「ピラジン類」。これは一般的に「香ばしい」と表現される香りで、コーヒーやチョコレートにも含まれ、リラックス効果があるといわれています。この「ピラジン類」は茶葉に含まれるアミノ酸が焙煎の熱によって変化し生まれるものなのですが、今回の調査で、茎の焙じ茶には「ピラジン類」が葉の焙じ茶の1.5倍含まれていることがわかりました。

さらに茎の焙じ茶では、「ピラジン類」だけではなく、ラベンダーなどに含まれる「リナロール」、ローズオイルなどに含まれる「ゲラニオール」という香り成分が葉の焙じ茶より多いこともわかりました。

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同じ茶畑、同じ年度に条件を揃えた葉と茎について、焙煎の前後で変わる香り成分を比較しました。(データ提供:石川県工業試験場)

「リナロール」・「ゲラニオール」は焙煎の前にも検出される物質ですが、焙煎後にその量が増えていることがわかります。さらに、「リナロール」・「ゲラニオール」とも、葉よりも茎に多く含まれるため、茎の焙じ茶では焙煎によってその香りがより強調されるのです。

「加賀棒茶」は、歴史的には煎茶の製造工程における副産物から生まれたお茶です。チャの生産量がほとんどない石川県で、そんな「加賀棒茶」が現在もなおつくり続けられ、愛されている背景には、チャの茎と焙煎との出合いが生んだ、香りの魅力があるのかもしれません。

丸八製茶場の焙煎へのこだわりと、
「献上加賀棒茶」。

そんな「加賀棒茶」の焙煎の方法は、大きく二つに分けられます。一つは、茶葉を火にかけた鉄板の上で混ぜながら焙じる「直火式」。もう一つは、茶葉を砂と混ぜて回転しながら熱し、砂の輻射熱で焙じ上げる「砂炒り」。どちらも、現在でも用いられている方法です。

「直火式」の棒茶は香りや味はしっかりと強く、水色(すいしょく)は濃い目に仕上がります。「砂炒り」の棒茶は琥珀色の水色が特徴で、上品な香りと旨味が出ます。丸八製茶場では、三代目 丸谷隆吉の時代からきれいな水色と茶葉の旨味にこだわり、昭和の中頃まで「砂炒り」で「加賀棒茶」をつくっていました。

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昭和30年代、丸八製茶場で砂炒り焙煎機を使って「加賀棒茶」がつくられていたころ。

昭和40年代に入り、食の安全性への意識が高まる中、丸八製茶場は「砂炒り」のおいしさをそのままに、砂の混入の可能性がない焙煎の方法を模索します。

チャの茎をふっくらと焙じ上げるには、砂に替わる、茎の中心へ熱を伝えることができる物が必要です。そこで思いついたのが、茶葉を乾燥させるための機械にセラミックのヒーターを取り付けるという方法でした。

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現在も使用されている焙煎機。セラミックのヒーターがチャの茎を芯から焙じ上げます。

砂が混入するリスクがなく、丸八製茶場が求める仕上がりを実現できるこの焙煎方法は、のちに丸八製茶場の代表的な商品となる「献上加賀棒茶」の開発・製造にも用いられることになります。

丸八製茶場の「加賀棒茶」の香りへのこだわりと、それを生み出す焙煎の技術が「献上加賀棒茶」の芳ばしい香りを生み出したのです。

おいしさをつくり出す
人の力を信じて。

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焙煎したあとの茶葉は、まず目視で仕上がりを確認します。その後、何人もの社員の試飲を経て、商品となります。

今回は、「献上加賀棒茶」の香りを生む焙煎について、科学と技術の観点から考えました。
科学によって裏づけられた「加賀棒茶」の香りが、分析されるそのずっと以前に人間の感覚によってつくられたことは、脈々と続く食の文化の奥深さを物語っているように感じます。

自然からつくられる茶葉は、毎年同じものであることはありません。日々移り変わる気候が、茶葉の状態に影響することもあります。そのすべてを受け止め、そのときどきの「おいしさ」を想像して焙煎を行っていくのは、すべて人の感覚と手によるものです。科学の一歩先をいく「おいしさ」の世界を、「献上加賀棒茶」で、どうぞ楽しんでください。

献上加賀棒茶

献上加賀棒茶