献上加賀棒茶の原料
2022年2月17日公開
「献上加賀棒茶」の原料は「棒」、つまりチャの樹の茎の部分ですが、
質のよいチャの樹の茎を仕入れるのは、実はとても難しいことです。
静岡県の藤栄製茶の遠藤勇樹さんに、「献上加賀棒茶」の原料と
製茶問屋のお仕事についてお話を伺いました。
一日に100種類以上のお茶と向き合う
製茶問屋の仕事。
「献上加賀棒茶」の原料となる良質なチャの樹の茎は、それを目的としてつくられることがないため、基本的に大量に仕入れるのが難しいものです。そのため、丸八製茶場では複数の製茶問屋にご協力いただき、チャの樹の茎を集めています。
今回は、その中の一社である藤栄製茶の遠藤勇樹さんに、製茶問屋の仕事と「献上加賀棒茶」の原料についてお話を伺いました。
製茶問屋は、お茶を生産している生産農家と、丸八製茶場のような商店をつなぐ仕事です。摘み採りの時期に生産農家から毎日届く、「荒茶」と呼ばれる流通前の段階まで加工された半製品状態の茶葉を、その見た目や味を確認して買い取り、最適なかたちに仕上げ、ブレンドして商店に卸します。
静岡県の製茶問屋の朝は、生産農家と問屋をつなぐ「斡旋(あっせん)屋」と呼ばれる仲介業者と取引をする「拝見場」からはじまります。拝見場は、前日に摘まれた茶葉がずらりと並ぶ場所。茶葉の仕入れを行うだけでなく、斡旋屋を通して問屋から生産農家への要望を伝える場でもあります。
「拝見場」では、一日に百種類以上の茶葉の味を見て、それぞれについて前日との違いまで見分けることもあるそうです。「製茶問屋としては、普通のことです」という遠藤さんも、入社当初は、特に地元のものではないお茶について、違いがよく分からなかったことも。「先輩や他の茶匠のコメントを聞いて、必死で勉強しましたね」と笑顔でお話されました。
数えきれないくらいの茶葉が並ぶ拝見場の中でも、茎のお茶はそのごく一部。
その中でも質のよいチャの樹の茎だけを集めるためには、遠藤さんをはじめ、製茶問屋の方々の長年に渡る尽力がありました。
質のよい「棒」を求めて。
生産農家とのコミュニケーション。
「献上加賀棒茶」の原料であるチャの樹の茎、通称「棒」について、遠藤さんは静岡県の方言を使い「みるい棒」、「みるくない棒」と表現しました。「みるい」は「若い、柔らかい、みずみずしい」という意味で、「みるい棒」は若くて力のある棒を指します。
「『献上加賀棒茶』の原料は一番茶の茎の部分ですが、その中でも柔らかく品質のよいものを原料として納品します。揉捻(じゅうねん)の作業を行った後でも茎の断面が丸い棒は『献上加賀棒茶』の原料としては固すぎるので、そうではない『みるい棒』、つまり柔らかいチャの樹の茎を選んでいるのです」。
こうして日々買い集めた複数の生産農家のチャの樹の茎の中から、さらに厳選したものをブレンドし、質のよいものだけを集めています。
それだけでなく、製茶問屋ではお茶をふるいにかけ、サイズが揃うように細かな調整も行うのです。
「この作業で、茎の量はおよそ20%ほど減ります。よいものだけを残すという意味でも、量を仕入れることが大切なんです。」
丸八製茶場には、「献上加賀棒茶」のチャの樹の茎を生産している生産農家のリストが届きますが、ほぼ毎年同じ生産農家の名前が並びます。
「『献上加賀棒茶』の原料として納められるような品質の茎を生産できる農家さんは、ごく一部です。そういった生産農家さんとは、よい原料を確保するため、斡旋屋さんを通して密にコミュニケーションを取っていますね」。
「献上加賀棒茶」の原料は、製茶問屋が斡旋屋、生産農家と緊密に連携を取って集められた、本当に貴重なものでした。