熨斗と、贈り物のこと。お茶を贈ること。

2023年5月25日公開

贈答品に購入いただいたお茶には、のし紙をかけることができます。
こののし紙のデザインは、「熨斗あわび」から生まれたことをご存知でしょうか。
贈り物にまつわる慣習の由来やそこに込められた想い、お茶を贈ることについて、調べました。

column/2023/0503/168315158402_1400_1400_100_auto.jpg

2000年以上前から続く、
のし紙の歴史。

のし紙をかけた贈り物を受け取られたことがある方は、多いのではないでしょうか。さりげなく使われている「熨斗(のし)」には、実は贈り物への思いが込められているのです。

「熨斗」とは、のし紙の右上についた、六角形の飾りのことをいいます。最近ではこの飾りが印刷されたのし紙がほとんどですが、この中に必ず描かれているのが、黄色の細長い模様です。この長方形の模様は、実はあの、「あわび貝」を表しているのです。

column/2023/0427/168255371804_1400_1400_100_auto.jpg

のし紙の右上にある六角形の模様が、「熨斗」です。狭義では、熨斗の模様がついたかけ紙を「のし紙」と呼びますが、近年では熨斗の模様がついていない、弔事用のかけ紙も「のし紙」と呼ぶことが多くなってきました。

「熨斗あわび」の歴史は、日本書紀の時代にまで遡ります。第11代垂仁天皇の皇女 倭姫命(やまとひめのみこと)が、現在の三重県鳥羽市国崎町を訪れた際に、あわび貝を食べ、そのおいしさに感動し、伊勢神宮に献上しました。以後、現在に至るまで、毎年国崎町では伊勢神宮に献上するため短冊状にのした「熨斗あわび」がつくられるようになりました。

時が流れ、「熨斗あわび」は、武士の間で慶事の贈答品に使われるようになります。その後、あわび貝以外のものが贈答品として使われるようになってからも、「熨斗あわび」は慶事の象徴として贈り物に添えられ、さらにそれが簡略化されたものが現在の印刷された「熨斗」へと変化していきました。

「水引」は、飛鳥時代の
隋からの贈り物がはじまり。

では、「のし紙」に印刷されているリボンのような「水引」には、どのような歴史があるのでしょうか。

水引の由来は、遣隋使 小野妹子の時代に、隋からの贈り物にかけてあった紅白の麻で作られたひも状のものという説が有力なようです。その後、宮中への献上品に紅白のひもが使用されるようになり、それが庶民の間にも広がりました。

歴史とともに、ひもだったものは、和紙をこよりにして水のりをひいて固めたものとなり、「水(のり)を引く」から「水引」という名前がついたようです。

column/2023/0503/168315159504_1400_1400_100_auto.jpg

のし紙に印刷された水引は、赤とグレーで紅白を表現しています。水引の色にも意味があり、地域によって使われるものが違う場合があるので、選ぶときには注意しましょう。

水引には、いくつか意味があるといわれています。未開封を保証するため、魔よけのため、ひもを結ぶということから人と人を結びつけるため、などが代表的なものですが、現在では特に、3つ目の人と人を結びつけるという意味合いで使われることが多くなっています。

水引の結び方によって意味が異なるのは、ご存知の方が多いでしょうか。上の写真は「蝶結び」。結びなおせる「蝶結び」は、何度繰り返してもいいお祝い事や、季節のあいさつに使われます。結婚祝いなどの、重ねることが好まれない慶事や弔事に使われる水引は、「蝶結び」以外の「結び切り」といわれるものを使うのがマナーです。

また、水引の色にも種類があり、紅白のものが慶事に使われ、黄白や黒白のものは弔事に使われます。弔事の場合、使う色は地域によって変わるため、事前に確認して選ぶようにしましょう。

「表書き」は、目録が略式化されたもの。
目的と、送り主の名前を書くのが一般的。

お店などで贈り物にのし紙をつけるとき「表書きはいかがなさいますか」と聞かれることがあると思います。郵便物の「表書き」には、送り先の住所や名前を書きますが、のし紙の表書きには、贈り物の「目的」と、場合に応じて送り主である自分の名前を書きます。

「表書き」は、かつて贈り物に添えられていた目録に由来しています。この目録には、品物の内容と数量、送り主の名前を書いていました。時代が進むにつれて、贈り物の目的と送り主の名前をのし紙に書くようになったのです。

column/2023/0427/168255397920_1400_1400_100_auto.jpg

のし紙の「表書き」は、贈り物の目的を指しています。「名入れ」の部分には、送り主である自分の名前が入ります。

丸八製茶場で贈り物を扱う際に問い合わせが多いのが、贈り物の目的である「表書き」です。下の表では、目的に合わせた表書きとのし紙の種類についてまとめています。ぜひ贈り物をされる際の参考にしてください。

column/2023/0427/168255398722_1400_1400_100_auto.jpg

「名入れ」には、送り主である自分の名前を記載します。インターネットなどで発注する際、間違えて送り先の名前にしてしまわないよう注意しましょう。送り主の名前の有無は基本的には自由ですが、結婚式などの場合には、受け取った方が誰からの贈り物かわからなくなることがないように、気をつけましょう。

「内のし」・「外のし」とは?
贈る手段と、目的で選びましょう。

のし紙をかける場合によく聞かれることの一つに、「内のし」にするか「外のし」にするか、があります。これは、のし紙を包装紙の内側にかけるか、外側にかけるかの違いです。

column/2023/0427/168255379412_1400_1400_100_auto.jpg

この場合は、のし紙をかけた箱をさらに包装紙で包んでいるので、「内のし」になります。宅配でお贈りする場合は、包装紙の外側にのし紙をかける「外のし」にすると配送の途中にのし紙が汚れてしまうおそれがあるため、基本は「内のし」でお送りします。

「内のし」・「外のし」にも、実はそれぞれに意味があります。

包装紙の内側にのし紙がかけられ、控え目な印象の「内のし」は、「内祝い」の際に使われるものです。ちなみに、現在では内祝いを「返礼品」と捉えることが多いのですが、もともとは「自分に祝い事があったのでお裾分けします」という目的で贈られる贈り物のことを言います。

「内のし」とは逆に、外側にかけ紙をかける「外のし」は、表書きがはっきりと見え、どのような目的でお贈りしたのかが即座に伝わるため、結婚・出産祝いなどのお祝いの際によいとされています。

しかし、最近では贈る目的を問わず、配送で贈る場合はかけ紙の汚れを防ぐために「内のし」で送るかたちがスタンダードになっており、丸八製茶場でも配送で承るギフトは原則として「内のし」でお送りしています。

カジュアルな贈り物なら、「かけ紙」の
デザインやメッセージで、贈る心を表現しましょう。

ここまで、のし紙について解説してきましたが、実は贈り物にかける紙のことを、大きくは「かけ紙」と言います。慶事や弔事の際には水引のあるのし紙を使うのが贈り先の方への礼儀ですが、それ以外のちょっとした贈り物や、家族間でのカジュアルなプレゼント用には、さまざまなデザインのかけ紙がつくられています。

column/2023/0503/168315160806_1400_1400_100_auto.jpg

水引に花をあしらったデザインのかけ紙。丸八製茶場でも、母の日や父の日、敬老の日の時季には専用のかけ紙をご用意しています。

贈り物の歴史について触れてきましたが、すべては贈る相手を思う心から生まれた慣習です。ぜひ、相手や目的に合わせたかけ紙を使って、贈り物に込めた心を表現してみてください。

手渡しで贈る場合に
知っておきたい、手提げ袋のこと。

日本では、埃除けのために風呂敷で贈り物を包み、それを贈り主の前でほどいてからお渡しするという風習がありました。贈り先へお渡しする際の手提げ袋は、この風呂敷がより手軽になったものです。そのため、風呂敷と同様に、自分で持ち帰るのがよいとされています。ただし、出先などで相手が自宅へ持ち帰るのに手提げ袋が必要な場合などは、「紙袋のまま失礼いたします」と言い添えてお渡しするとよいでしょう。

最近では、手提げ袋のまま相手先にお渡しすることも多くなってきましたが、正式なマナーは覚えておくと安心です。

column/2023/0427/168256629932_1400_1400_100_auto.jpg

一度にいくつかの贈り物を購入する場合もあるでしょう。その際は、何か所にお渡しするのかお店に伝えて、必要な枚数を相談するとよいでしょう。

近年、手提げ袋はリボンをかけたり、シールを貼ったりしてラッピングの一種として扱われることも多くなりました。家族や友人の間のちょっとした贈り物や、バレンタインデーやホワイトデーなどのプレゼントでは、あまり堅苦しく考えず、遊び心のある手提げ袋を使ってもよいかもしれません。

チャの樹の性質から
ハレの贈り物としても使われるお茶。

お茶の贈り物というと、弔事を思い浮かべることが多いかもしれませんが、実はお祝い事や季節のご挨拶にもおすすめの贈り物です。九州地方では、お茶の木は一度植えると深く根を下ろす、という性質から結納品として贈られる慣習もあります。

column/2023/0427/168255382218_1400_1400_100_auto.jpg

丸八製茶場では、御中元や御歳暮としてお茶のギフトを承っています。その季節に合わせたお茶の贈り物で、季節の移ろいも楽しみましょう。

関西地方では、「大福茶(おおふくちゃ)」といわれる、その年のはじめに縁起をかついで昆布と梅干しを入れたお茶を飲む習慣があり、丸八製茶場の「大福茶」は、年末年始のご挨拶の手土産や、新年を迎える朝の縁起物のお茶として使われています。

日本茶も、贈り物も、長い歴史の中で変化を重ねてきました。特に日本茶は、近年はペットボトルの登場などでより身近な飲み物になり、楽しみ方も、興味を持つ層も広がってきています。そんな中で、茶葉からいれるお茶は、忙しい日々の中で、少し立ち止まってほっとするひとときを贈る、ちょっと贅沢な贈り物といえるのかもしれません。

時代は変わっても、贈り物に込める人の気持ちは変わらないものです。基本の作法を押さえておくのは大切ですが、もっと軽やかに贈り物というコミュニケーションのかたちを楽しんでみましょう。

*「大福茶」は季節・数量限定商品です。
 毎年11月初旬から中旬に予約を受付け、12月初旬にお届けしています