《お茶と言葉》
深炒り焙じ茶の、言葉。
2024年10月1日公開
お茶と同じ嗜好品であるワインは、「一期一会のような味」
「猫のように気まぐれな味」のようにユニークな表現で形容されます。
「お茶と言葉」では、焙じ茶をはじめとするお茶について表現する言葉を、自由に考えてみます。
焙じ茶をはじめとする日本茶は「旨味」「渋味」などといった言葉で表現されることが多いのですが、それに比べると、ワインの味の表現は自由です。
「お茶と言葉」は、丸八製茶場の社員がお茶を飲んで感じたことを、ワインのように自由に表現してみる試みです。一般的なお茶についてよく使われる表現とは違う、ユニークな言葉が、皆様のお茶選びの際の参考になれば幸いです。
深炒り焙じ茶の、言葉。
丸八製茶場で製造している焙じ茶の多くは「浅炒り」と呼ばれる、焙煎する時間や火入れの温度を抑えたお茶です。この製法は、茶葉そのものが持つ繊細な香りと味をいかすためのものです。しかし、一般的に「焙じ茶」と呼ばれるお茶は、より長い時間、より強い火力で焙煎をした「深炒り」が多く、少し焦げたような香りが特徴とされています。
「深炒り」の焙じ茶は、力強い香りと深い味わいが魅力。その特徴をいかして、焙じ茶ラテなどのアレンジメニューによく使われます。今回は、そんな「深炒り」の焙じ茶を表現する言葉を考えてみました。
九州の深炒り焙じ茶の、言葉。
柔らかな土と学校の記憶。
深炒りの焙じ茶と一口にいっても、たくさんの種類があります。今回はその違いを楽しむために、石川県でつくられている丸八製茶場の深炒りの焙じ茶と、他県でつくられている焙じ茶を用意しました。
1つ目は、福岡県北九州市でつくられた焙じ茶です。福岡県で栽培されているチャの樹の茎の部分を使い、焙煎したものです。深炒りの焙じ茶の中では、焙煎は少しだけ弱めな印象でした。
自然の中の言葉でも「土」を中心にしたもの、そして「学校」についての言葉が集まりました。
まずは「土」のイメージから。「ちょっと汚れた手」「土手に咲く」の言葉と共に描かれているのは「どんぐりを探した後」「タンポポやつくしを摘んでいる」など、童心に返って自然を楽しむ場面。「田植え作業、青空の下」からも、のんびりとした田舎の、青々とした田んぼの風景が思い浮かびます。
「学校」にまつわる言葉で興味深いのは、「入学式」や「冬休み前」など、非日常感のあるシーンが多いことです。「先輩不在で、おしゃべりをしながら練習」という言葉から思い浮かぶ、放課後の空気の中で気まぐれに響く吹奏楽器の音色は、誰の記憶の中にもありそうです。
子ども時代から思春期までを過ごす学校という場所には、区切られた時間と時間の中に発生する、ふわりと浮遊する時間が存在するように思います。その浮遊感は「入学式」「部活」「大掃除」の緊張と、新しい学校生活への期待、「先輩不在」の開放感、「大掃除のワックスがけ」の冬休み前のワクワクといった、相反する気持ちの混在によってつくられているのかもしれません。
1つ目の焙じ茶は、素朴な渋味の中に感じられる優しい旨味、甘味が特徴でした。人によっては青さを感じたというスタッフもいたようです。幼く、若かった頃に味わった少しの緊張感と、それと相反する自由が感じられる、そんなお茶だったのではないでしょうか。
石川県の深炒り焙じ茶の、言葉。
洗練された力強さ。
浅炒りの焙じ茶が多い丸八製茶場ですが、深炒りの焙じ茶も製造しています。その名も「深炒り焙茶 BOTTO!(ボット)」。チャの樹の葉も茎も丸ごとしっかりと焙煎したお茶は「無性に飲みたくなるときがある」と丸八製茶場の社員にも愛される存在です。
スモーキーと表現されることが多い「深炒り焙茶 BOTTO!」。「片町」は、石川県金沢市の繁華街。古くからの飲食店が立ち並ぶエリアには、昔ながらのクラシックな内装のお店が残っています。それに加えて「喫茶店」や「都会の街中」といった風景からは、ハードボイルドミステリーの世界が思い浮かびます。
「ハードボイルド」は、固ゆで卵という意味から転じて、簡潔な文体で事実のみを描く、推理小説で多く用いられる文体。その主人公の多くが寡黙でタフな男性であることから「ハードボイルドな男性」という表現もあります。「喫茶店」や「都会の街中」とはまったく違う場所なのに、「暖炉用の薪を割っている」や「山に住むひげの生えたワイルドな男性」から、同じタフさを感じるのは不思議です。
「海外のおじいちゃん」「お洒落なおじさん」からは、人生経験豊富な男性が思い浮かびます。ライフスタイルや服装にこだわりを持つ人物像が多く上がるのも、このお茶の特徴です。
「黒い若い、元気で力強い馬が高原を走り抜ける」という言葉。その馬に、ここで登場してきた男性が乗っているのを想像できるような気がします。多くを語らない、その男性だけに乗ることを許すやんちゃで若い馬。男性が一人で楽しむ時間を思い起こさせるのが「深炒り焙茶 BOTTO!」なのかもしれません。
埼玉県の深炒り焙じ茶の、言葉。
ロマンチックでどこか不思議な世界観。
3つ目となる焙じ茶は、埼玉県のもの。しかし、製法は京都でつくられる京番茶を意識したものです。京番茶は、茶葉を揉まずに焙煎してつくられるため、独特の味と香りがあります。このお茶も、京都出身の社員にとっては懐かしい味わいだったようです。
「怪しい」イメージの言葉が続きます。横溝正史(よこみぞせいし)は、『犬神家の一族』などで知られる推理作家。「闇の魔術と繋がる魔法学校の先生」は、心の読めないミステリアスな印象です。どちらも、ほの暗く、底知れないイメージがあります。まさに「蛇」のよう。
続くのは「おばぁ」「おばあちゃん」という言葉。『西の魔女が死んだ』は、主人公とその祖母のお話。「『サマーウォーズ』のおうち」は、大家族をまとめる老婦人が住む家です。風邪をひいたときに看病をしてくれる優しいおばあちゃん、「一人暮らし」のおばあちゃん、芯の強いおばあちゃん。登場するおばあちゃんたちは、自分の世界をもった女性。子どもも孫も知らない、自分だけのロマンチックな秘密を抱えている、そんな印象です。
ミステリアスでロマンチック。そんな不思議な魅力のあるこのお茶からは「タイムスリップ」「操り人形の女の子が主人公の物語」という、SFやファンタジーになりそうな物語さえ生まれはじめています。
今回は、自由な表現の言葉と一緒に、お茶そのものについてのコメントも集めました。そこでは、香りや味についての一般的な感想が並んでいたのですが、それとは別に「自由に」言葉を出してもらったことをきっかけに、色々な物語が広がってくることがわかりました。ぜひ、あなたも身近なお茶について、お友達と語り合ってみませんか。
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