丸八製茶場の人
中村邦広さん・長崎貴也さん
2021年9月29日公開
丸八製茶場のお茶は、丸八製茶場の人がつくっています。
丸八製茶場は、丸八製茶場の人でできています。
中村邦広さん・長崎貴也さん焙煎士
中村さんは石川県小松市出身。平日は毎朝焙じ茶を飲んでから出勤。ロックやジャズが好きで、友人と組んでいたバンドではベースを演奏。
長崎さんも同じ石川県小松市出身。丸八製茶場の茶園 三畝(さんぽ)の管理者として「茶園 三畝(さんぽ)日記」でも情報発信中。趣味はマラソン。「茶園の草取りも体づくりの一環です」。
別々の業界から飛び込んだ
焙じ茶の世界。
石川県加賀市動橋町にある丸八製茶場の工場は、誰でも見学できるオープンな設計です。そこで日々焙煎の作業を行っているのが、焙煎士の中村邦広さんと長崎貴也さんです。
茶葉が焙煎機を通過するのは、実は数十秒程度の短い時間。短い時間だからこそ、数秒で味が変わる難しさがあります。ふだんは集中して黙々と手を動かすお二人に、お話をうかがいました。
中村さんは石川県の小松市出身。30代まで機械設計の仕事をしていましたが、食に関わる仕事をしたいという思いから、丸八製茶場に転職しました。前職の経験をいかし、焙煎機の調整を行うこともあるそうです。
加賀市のお隣、小松市でもお茶といえば焙じ茶。小松市から世界に羽ばたいた企業、小松製作所の100周年(2021年)では、特注デザインの缶に入った丸八製茶場のお茶が記念品として社員に配られました。
同じく小松市出身の焙煎士 長崎さんも、「地元の企業とのコラボレーションであることもですが、今まで丸八製茶場のお茶を飲んだことがない方にも飲んでいただける、というのもうれしかったですね」と語ります。
長崎さんは、大阪で学ばれたあと、一度医療関係の道に進みます。その後、縁あって丸八製茶場に転職しますが、実はもともと生粋の日本茶好きだったのだそうです。大阪では、「お茶というとき、焙じ茶ではなく煎茶だということにカルチャーショックを受けました」とのこと。もちろん、煎茶もよく楽しんでいます。
お二人に共通するのは、お茶だけに限定されない、食全般への関心の高さ。丸八製茶場の企業風土にも、それを育てる土壌があるようです。
「コロナの影響で少なくなっていますが、もともと社員同士の懇親の場は多く設けられていました。社内で席を用意する場合でも、社外のお店で行う場合でも、食べ物や飲み物、お店の選び方には、いいものを知るための勉強という意味もあり、こだわります」。
また、やはり現在は少なくなっていますが、原料を生産している契約農家さんとの交流の機会も、研修として設けられています。「やはり『会うこと』は大事。つくりたいお茶のビジョンも、会うことで共有できるものがあります」と中村さん。長崎さんも「茶畑を見るだけで癒されますね」と笑顔で話してくれました。
はじめに教わるのは、
「何を思って焙煎するか」。
焙煎の作業は、朝の8時半から行われます。日々変わる茶葉のコンディションに合わせて焙じ上げたお茶を、午前中のうちに他の社員に試飲してもらい、フィードバックをもらいます。ユニークなのは、日々同じように仕上げることを目標にするのではなく、その日その日の目標を持つようにしていること。
「例えば、暑い日には水出しで飲んでいただく献上加賀棒茶を想像して。寒い日にはほっこりと暖かく飲む焙じ茶をイメージして、目標を設定します」と中村さん。
中村さんも長崎さんも、焙煎技術を学ぶとき、最初に教えられたのが「何を思うか」ということだったといいます。飲む人を考え、それを実現するために自分がどうしたいかを考え、それを人に説明できることが、大切なのだそうです。
「味のもっていきかたや火の調整の仕方など、技術的なことも大切ですが、まずは『何を思うか』です」。焙煎機を使った作業が主ではありますが、すべての根本には、やはり人が人を思う気持ちがあるのです。
生産者から飲む人までを
考える仕事。
中村さん、長崎さんが所属する製造課で行っているのは、定番商品の製造だけではありません。
丸八製茶場では、季節ごとに「焙茶noma」、月ごとにさまざまな茶葉を使った「季節のほうじ茶」を販売しています。毎年異なる茶葉の入荷状況やコンディションを確認しながら、それぞれの商品設計を行うのも、焙煎士の仕事です。
商品づくりでは、どの茶葉をどのように焙煎するかだけでなく、焙煎した茶葉をどうブレンドするかという「合組」までを考えます。無限にある組合せの中からベストなものを判断して選び抜く作業は、産地や茶葉の深い知識がなければできないもの。こういった作業にも、生産地へ足を運んだ経験が生きるのです。
茶葉がつくられている生産地から、飲む人までを考える焙煎士の仕事は、焙じ茶の現場をつなぐ仕事といえるのかもしれません。
(聞き手:阿部希葉)