
涼を呼ぶ、ガラスとお茶
2025年7月19日公開
くらしを楽しむことは、旬を楽しむこと。
焙じ茶のさまざまな旬を、丸八製茶場からご紹介します。
今回は、作家もののガラスの器で楽しむ、冷たいお茶のおいしさについて。

夏の楽しみ。ガラスの茶器でいただく
冷たいお茶の涼しさ
暑さが続く夏の季節は「涼しさ」がくらしの中のちょっとした贅沢。冷たい食べものや飲みもの、音で涼を感じる風鈴、昔ながらの打ち水など、さまざまな工夫が暑さを楽しむ知恵となります。少しずつ長くなってきた夏のために、涼を取る知恵は、ふだんからできるだけ集めておきたいですね。
今回ご紹介するのは、お茶と合わせて五感で清涼感を感じるガラスの器たち。日本茶は温かい飲みものと思いがちですが、水出しやオンザロックで冷たくいただくお茶には、温かいお茶とはまた別のおいしさがあります。冷たい日本茶のおいしさが一層際立つ、ガラスの器の涼やかな質感や感触を想像しながらお読みください。

ガラス作家の方によると、夏にはガラスの展示が多くなるのだとか。暑さを感じはじめると、人はガラスの涼しさを求めるのかもしれません。
丸八製茶場では、直営店のギャラリーでお茶まわりの器をはじめとした工芸品や絵画、書などさまざまな作品の展示を行っています。これまでにたくさんのガラス作家の作品を紹介してきた中で、今回は石川県と富山県で活動するお二人の作家の方にお話を聞きました。
ガラスが繋がり溶け合う緊張感と、
キリッと冷たいオンザロックの焙じ茶
中野雄次(なかのゆうじ)さんは、石川県金沢市で活動するガラス作家です。「生活の一部になるような器をつくって生きていきたい」という中野さんの器は、スタンダードなフォルムを基本としながら、静かな遊び心があるのが特徴。「パーツ」と呼ばれるシリーズは、シンプルなかたちを一度崩し、再構成することから生まれました。

「パーツ」シリーズのグラス。シンプルなグラスに、割れたコップのガラスをくっつけて生まれた気泡のようなデザインが涼やかです。
「どう使うかは使う方に委ねたい、と思っているので、どんな飲みものをいれてほしいということはあまり考えないのですが、このグラスは薄手なので、強いて言えば冷たいものが合うと思います」という中野さん。
こちらのグラスには、「加賀ほうじ茶」をオンザロックでいれました。爽やかな香りの「加賀ほうじ茶」は、濃いめにいれたお茶を氷で急冷することで、すっきりキリッとした印象に。「パーツ」シリーズの持つ繊細な緊張感が、そのキンと冷えた味わいを引き立てます。
「少しだけ」の贅沢を、かたちにして。
大切にいただく、水出しの焙じ茶
「温かい飲みものを少しずつ飲むのが好きなんです」という中野さん。「Chokkoshi」シリーズは、その想いがテーマになっている作品です。「ちょっこし」とは石川県金沢市の方言で「少しだけ」を意味します。大きなグラスでごくごく飲むおいしさもありますが、少しずつゆっくりと飲みものを味わう時間を、中野さんは大切にしています。

手前右の「Chokkoshi」シリーズのグラスは、縁の部分にいたずらのようにのせられた赤色がユーモラス。手前左のその名も「湯呑み」は、温かいものを飲むときのために持ち手をつけたデザインですが、あえて冷たい焙じ茶をいれることで、また違った雰囲気に。
耐熱グラスの「Chokkoshi」シリーズに、今回は、あえて冷たい「献上加賀棒茶」を合わせました。「献上加賀棒茶」は、美しい琥珀色の水色(すいしょく)が特徴です。透明なガラスの器は、この琥珀色を楽しむことができます。中野さんのように、小さな器でお茶の味と香り、水色をじっくりと味わう時間を、いつものくらしの中に取り入れてみるのもいいかもしれません。
しっとりと手になじむガラスと
水出しの焙じ茶で食卓に特別感を
小宮崇(こみやたかし)さんは、富山県砺波市で制作を行うガラス作家。「白のうつわ」シリーズは、吹き付けの技法で表面をマットに仕上げた器です。さらさらとした表面は、夏の気候でも涼やかな触り心地。冷たい飲みものをいれると、ほのかにひんやりとした温度を楽しむことができます。

「白のうつわ」シリーズ。持ち手がついたようなデザインは、古代中国で馬の上でお酒を飲むときに使われていた馬上杯から着想を得たそうです。
焙じ茶の水出しは、甘味が引き出され、苦味や渋味が抑えられるため、すっきりとした味わいが際立ちます。「献上加賀棒茶」のクリアなおいしさは、食事に合わせるのにもぴったりです。夏の食卓に麦茶を出す方も多いと思いますが、来客時にはちょっと特別な焙じ茶の水出しを特別感のある器で出すのも、すてきなおもてなしです。
日陰のような涼しい色合いの器で、
氷で冷やした焙じ茶を
小宮さんの「型吹きのうつわ」シリーズは、型にガラス種を吹き込んでつくられるシリーズです。「薄すぎるグラスは、壊れそうで不安になるんです。このグラスは僕の作品の中では薄めですが、薄すぎないバランスを追求して、この厚さになりました」

波打つ表面とグレーがかったガラスの色によっていつまでも見ていたくなるようなニュアンスが生まれる「型吹きのうつわ」
納得のいく作品をつくるために無数の試作を重ねるそうで、「型吹きのうつわ」はこれというものができあがるまでに、2年の年月が必要だったとのこと。「失敗したガラス作品は、不要なものとして廃棄するのが基本ですが、僕はそれを再利用しています。僕の作品のグレーがかった色は、それまでの作品の色が混ざり合ってできたものなんです」と語ってくれました。
厳しい暑さの日には、「献上加賀棒茶」の水出しに氷を入れて。お茶と氷とグラスを通して揺らぐ光と影は、それだけで心地よい夏のひとときを演出してくれます。グラスを口に運ぶときカラリと響く氷の音や、手にひんやりと伝わるやわらかな凹凸(おうとつ)が、冷たい「献上加賀棒茶」のおいしさをより豊かに、心地よく感じさせます。
いつも温かく飲んでいるお茶を水出しやオンザロックでいれてその違いを味わう、お茶好きな方にとっては楽しいひととき。ふだんは陶器や磁器でいただく日本茶も、ガラスの器と合わせると水色の美しさが際立ち、清涼な雰囲気になります。この夏は、ぜひガラスの器と日本茶で新しい涼を見つけてみてください。